モンテッソーリ教育において、「逸脱」と「正常化」という概念は、子どもの発達過程における重要な要素です。
これらの用語は、モンテッソーリの教育哲学の中核を成すものであり、子どもが健全に成長し、自らの潜在能力を最大限に発揮できるかどうかを示す指標として用いられます。
逸脱とは?
「逸脱」とは、モンテッソーリ博士が定義するところの、子どもが本来の健全な発達の軌道から外れてしまった状態を指します。
逸脱は、環境や大人の不適切な介入によって引き起こされることが多いとされています。
例えば、子どもが過度に束縛されたり、逆に放任されたりすることによって、子どもは自分の本来の興味や活動に集中できなくなり、不安定な行動を示すことがあります。
日本人の子どもに多いイヤイヤ期は、まさに、逸脱の典型的なパターンといえます。
モンテッソーリ博士は、逸脱の主な原因として以下の点を挙げています。
不適切な環境
子どもが自由に探求できる環境が整っていない場合、発達が阻害され、興味を失ってしまいます。
過度に制約された環境や、逆に秩序が欠けた環境は、子どもにとってストレスとなり、逸脱行動を引き起こすことがあります。
大人の介入
子どもが自分のペースで学び成長する機会を大人が奪うと、子どもは自発性を失い、他者に依存するようになります。
これが続くと、自己中心的な行動や攻撃的な態度、過度な引っ込み思案など、逸脱した行動が見られることがあります。
正常化とは?
一方、「正常化」とは、モンテッソーリ博士が理想とする子どもの発達状態を指します。
正常化した子どもでは、どのような特徴が消えるかを観察すると、子どもの特徴として知られているほとんどすべてのものが消えることに気づいて驚きます。子どもの短所と考えられるものだけでなく、長所と判断されるものまで消えます。つまり、無秩序、不従順、無気力、食い意地、自分勝手さ、言い争い、わがままだけでなく、いわゆる創造的な想像力、物語や遊びを好むこと、人への愛着、従順さなどまでが消えます。科学的な研究によって子ども本来の特徴として知られている、模倣や好奇心、移り気、注意力の不安定さまでが消えます。
マリア・モンテッソーリ「幼児の秘密」
これは、子どもが環境に適応し、自発的に学び、集中力を持ち、自分自身をコントロールできる状態です。
正常化した子どもは、内なる秩序を持ち、他者との調和を保ちながら、自分の興味に基づいて活動します。
つまり、大人のように分別のある状態に落ち着くのが正常化です。
むしろ、粗悪な大人よりもよっぽど大人らしい立ち振る舞いをする平和な子どもになります。
正常化は、以下の要素によって促進されます。
自由と規律
モンテッソーリ博士は、「自由と規律」のバランスが重要であると説きます。
子どもが自由に探求し、選択できる環境は、自己規律を育む土台となります。
自由が与えられる一方で、その自由が他者の権利を侵害しないようにするというルールも同時に学ばなければなりません。
これが秩序を生み、正常化を促進します。
集中力の発達
モンテッソーリ教育において、集中力は正常化の鍵となります。
子どもが深く集中しているとき、その精神は整い、発達が促進されます。
この集中状態を「フロー」とも呼び、子どもが自らの活動に没頭することで、内的な安定が生まれます。
自己教育力
正常化のプロセスには、子ども自身が学び、成長する力が不可欠です。
モンテッソーリ博士は、子どもが本来持っている自己教育力を信じ、環境を通じてその力を引き出すことを重要視しました。
正常化は、子どもが自らの力で成長し、自己を形成していくプロセスであり、その過程で自信や自律心が育まれます。
逸脱から正常化へのプロセス
モンテッソーリ教育では、逸脱から正常化へのプロセスを支援するために、環境と教育者の役割が非常に重要視されます。
教育者は、子どもに自由を与える一方で、秩序立てられた環境を提供し、子どもの発達を見守り支援することが求められます。
逸脱している子どもは、適切な環境と教育の中で、正常化へと向かっていくことができます。
このプロセスは、子ども一人一人によって異なり、個々の発達ペースに合わせてサポートすることが大切です。
おわりに
「逸脱」と「正常化」は、モンテッソーリ教育において子どもの発達を理解するための重要な概念です。
逸脱は、適切な環境や自由を与えられないことで生じるが、モンテッソーリ教育の原則に基づいた支援によって、子どもは正常化し、健全な発達を遂げることができます。
教育者や親は、子どもが自然な発達を遂げられるよう、適切な環境を提供し、子どもの内的な力を引き出す役割を果たすことが求められます。