この記事はこれからおうちモンテッソーリを始める方にはもちろん、実際にモンテッソーリ園に通っている方がおうちモンテッソーリをされる際にも参考になる記事内容にしてあります。
自然な発達を制限された自由の中で育てる
モンテッソーリ教育ではまず、大人と子どもの違いをしっかりと理解しつつ、子どもを下に見るのではなく、同じ人間として平等に扱います。
同じ人間であるが、未熟であるか、成熟しているかの違いがあるだけ。
大人のものさしで測った価値観を押し付けないこと。
子どもたちは成熟していくための本能的な流れに沿って、誰に何をやれと指示されるわけでもなく、その時その時に自分にとって必要と思われるものに対して自然と興味を持ち、夢中になって取り組んでいくことで成長を進めていきます。
未熟ゆえに出来ないことが多いですが、子どもたちはそれを本能的に克服していこうと様々なものを体験しながら吸収しようとします。
このように、みんな、生まれつき『自己教育力』を備えて生まれてくるのです。
この普遍的な成長の流れは決まっています。
それを事前に大人たちが把握しておき、子どもたちが自立するために挑戦するあらゆる場面で、そっと傍に立ち、助けを求められたらいつでも手を貸す、そんな寄り添い方をする教育法です。
世の中で考えられているモンテッソーリ教育は、自由にのびのびとさせることや自発性のイメージが強いと思います。
しかし、実際のところ、自由を保障しながらも、教具の取扱いに関しては厳しい制約を課しており、無制限な自由とは異なるものです。
実は、自由でありながらも色々と規律に厳しい幼児教育法です。それも全て理由があってのこと。
「逸脱した状態」から「正常化」を目指す教育
モンテッソーリ教育を実践する幼稚園などでは、幼児期(小学校入学まで)において、子どもたちが幼稚園卒業するまでには「逸脱した状態」から「正常化」して送り出すことを目標としています。
本来、子どもたちは、自己統制ができ、秩序感も持ち、道徳感もある、忍耐や他人への配慮も持ち合わせている・・・はずですが、「逸脱した状態」にある子どもたち、いわゆる一般的なザ・幼児な子どもたちは、乱雑で粗暴、手に負えない部分が多く大人が手を焼くような存在です。
でも、乱雑で粗暴な子たちがモンテッソーリ教育で言う活動(お仕事)をすることによって集中し、急に落ち着きを持つようになるのです。
集中力が高まり、子どもが“動”から“静”に転じる瞬間。
このような現象をモンテッソーリは「正常化」と呼んでいます。
子どもたちを「正常化」させていくためのカリキュラムが、まさにモンテッソーリ教育の目指すものなのです。
幼児期に「正常化」されるべきところを「逸脱した状態」のまま先に進んでしまうと、将来、その欠陥部分が悪影響を及ぼします。
それを防ぐために、「逸脱した状態」をすべて「正常化」して進むことが目標とされているものです。
モンテッソーリ教育では5つの分野を学ぶ
モンテッソーリ教育には、5つの分野があります。
日常生活の練習、感覚教育、数教育、言語教育、文化教育の5つです。
これは、これから知性を育むために土台(骨組み部分)を作る大切な学習なので、しっかりと意識してください。
おうちでするモンテッソーリになると、この垣根がどうも曖昧になりがちなのですが、初めにここを強く意識していただくのがポイントと思います。
なぜ、これを強く意識した方がいいのか?その理由も後半部分でお伝えします。
5つの分野があることにはあるのですが、完全に独立した分野というわけではありません。
性質上、分けられているものの、互いに切り離すことができないくらい複雑に絡み合い密接に関わっています。
特に、日常生活の練習と感覚教育の部分はモンテッソーリ教育の全ての基盤となる基礎の部分なので最も重要です。
この部分がしっかり出来ていないと先の算数教育や言語教育に進んでもつまずいてしまう原因になりますし、そもそもその状態では先に進むべきではありません。
実は色んな意味があり、分野を学ぶ順番というのは厳密に決められているのです。
敏感期というものがあり、個人個人で学習(分野ごと)に意欲的になる時期が異なるため、実際に学ぶ年齢は個人によりますが、この『日常生活の練習』と『感覚教育』を学ぶ順番自体は誰であっても変わることがありません。
5つの分野を育てる順番が大切な理由
1番目にやっておきたいこと、そして、おうちでするモンテッソーリ教育でも一番身近で取り入れやすいもの、それは『日常生活の練習』ですね。
モンテッソーリのお仕事(おしごと)や活動、作業などと紹介されて多く出回っているのは、ここの部分だと思います。
モビール、ポットン落とし、シール貼り、トングやスプーンでのあけ移し作業、ボタンのはめ外し、縫いさし、靴紐結びなどなど、冒頭でも前述したようなSNSやネットでよく見る活動です。
あらゆる手の動かし方を学ぶ道具を使い、日常生活の自立を助ける練習になります。
しかしながら、モンテッソーリ教育の中では、これらはモンテッソーリの指導法を導入するための前準備であって、導入前の立ち位置である印象です。
モンテッソーリ教育の原理が反映されてないものも多く見かけます。
モンテッソーリ教室に通われてる人の中にも、その原理を知らずに教具を揃えていらっしゃるのか、おうちモンテッソーリを見てみると原則に沿わない教具を使われていることもあるようです。
せっかくモンテッソーリ園に通えている子も中途半端におうちモンテッソーリに手を出してしまうと、子どもが教室との違いに戸惑って混乱してしまうと思います。
なので、自力でやるおうちモンテッソーリの人ならさほど影響はありませんが、教室や幼稚園に通われている人がするおうちモンテッソーリの場合は、より一層、『基本』に気をつける必要があります。
教室や幼稚園と連携した内容で学んでいく必要があるため、余計に基本原則に則った形でなければならないのです。
日常生活の練習=モンテッソーリ教育の指導法導入のための基盤作り(心身を育てる)
感覚教育=算数や言語など全ての知性活動の基盤作り
このようなイメージとなっております。
日常生活の練習の中で、大人との信頼関係を築き、提示(モンテッソーリ教育で言う教師の教え)を受けるための基盤作りを行います。
また、手指の巧緻性を高めることで様々な教具を取り扱える操作(動作)も日常の中で学び、観察する力や自分で気づくという、『見る力』も育てます。
モンテッソーリ教育は特に手指を動かす運動について重きを置く教育です。
自立した活動が基本スタイルですから非認知能力的な部分ももちろん育まれますね。
これらの基礎があることによって、教具を扱う際に大人の提示を子どもが受ける流れや、自分で観察し考える力、教具を操作するという一連のモンテッソーリ教育の指導スタイルに落とし込んでいけるようになるのです。
感覚教育は日常生活の練習で、ある程度基礎ができた後で行います。(並行で行うものもある)
感覚教育こそが乳幼児期に育てたい五感を伸ばす、そして、全ての知性の土台ともなる部分を強化する重要な活動です。
人間は、抽象的な概念を言語化することにより知性的な活動を行えています。
見たもの、聴いたもの、食べたもの、触れたもの、嗅いだもの…五感で感じたものを言語化することで言葉をかわし、意見を交わし、知的な活動を行えていますよね?
つまり、生活の中で人間として思考しながら生きていくためには、知性の源になる五感で感じたものを言語化することが大切なんです。
モンテッソーリ教育は五感を満遍なく言語化する部分にとても長けた教育法です。
抽象概念を言語化する流れを形式化し、セガンの『三段階の名称練習』という独特な手法を用い、徹底した確認作業を繰り返すことで、子どもたちが確実に感覚や抽象概念を自分のものにし、言語化していきます。
大きい・小さい、長い・短い、多い・少ない…など、大人にとっては当たり前となっているこのような概念を子どもたちが学ぶ際、どのように教えるのが理解しやすいでしょうか?(これらの概念は算数教育において最も用いられる概念でもあります)
知覚能力を高めることで、同じものと違うものに気づくようになり、違いを見分ける観察力を育て、文字の形の違いであったり、同じ性質のものを数えるといった活動が可能になっていきます。
これはまさに、基礎の力ですよね?
極限まで、抽象概念の見本となる具体物(教具)をその概念だけの状態に絞ることによって、子どもに伝えやすくする・・・それがマリア・モンテッソーリが考案した教具と呼ばれるものなのです。(性質の孤立化)
実に、よく考えられた教具の数々にただ驚くこと間違いなし。
- 日常生活の練習
- 感覚教育
- 算数教育
- 言語教育
- 文化教育
敏感期も重要ではありますが、この順番を意識しながら進めていくこととなります。
感覚教具は3歳より前で安易に使わせないで!
おうちモンテッソーリでされてる方の中では、子どもが興味を持てば、3歳〜となっている感覚教具でも1歳代で前倒しで使っているものもお見かけしますが、それはモンテッソーリ式ではありません。
ただ、同じ教具で“遊んでいる”だけであって、その教具で体得すべきものを得られているかは不明です。
また、モンテッソーリ教育では教具で遊ぶことはしません。目的の用法以外では使わせないのです。
モンテッソーリ教育は適時教育であり、早ければ早いほど良いという早期教育ではありません。
なぜ、3歳〜となっているかというのにもちゃんと意味があるんです。
この時期を堺に子どもたちの記憶方法が大きく転換します。
意識的記憶の時期に入る前に感覚教具を使わせると、本来の用途でその教具を使わないこともあるため(見立て遊びなどしてしまう)、教具によっては注意しながら提供を行う必要があるのです。
この切り替わり時期は個人個人で違うものなので、あくまでも3歳前後と幅があり、それぞれタイミングが違います。
この時期に入ったかどうかというのも含めて見極め方法がありますが、それはまた別記事にて触れる予定です。
このように、感覚教育の分野は始める時期の見極め方や進め方がとても難しいです。
しかしながら難しいからといって感覚教育を飛ばしたり、疎かにした状態では算数教育や言語教育には進めません。
色んなステップを踏まなければならないのです。
おうちモンテッソーリでされるのであれば、まず、日常生活の練習までを確実にしておくことをおすすめします。
その先に進みたいという場合は、変に手を出さないで、基本原理を学んでから進む必要があります。
しっかりと5つの分野の垣根を意識してみることで、モンテッソーリ教育のステップが可視化出来るため、教育法として導入していく際に役立つはずです。
生まれてからずっとではなく、途中参加のモンテッソーリ教育だけど大丈夫か?と言う人も、このステップを順番に踏んでいくことで導入していけます。
むしろ、初期のモンテッソーリ教育は2歳半から3歳前後から始める幼児教育としてあったくらいのものなので、生まれてからすぐ取り入れてないから追いつけないのではないのかと悲観的になる必要はないです。
敏感期に間に合っていれば、子どもたちは知識をすぐに吸収してくれます。
さいごに
モンテッソーリ教育は、障害児のために考案されたものであるため、徹底的に五感開発する特徴があります。
健やかな発達を助けるためには、五感で感じるものを表現できること、正常に機能していること、その先に知性活動があると考えたのです。
結果、健常児において教育法を適用する場合にも、五感全てに気を配る精密な教育法であるため、何か五感に障害があればその過程で早期に子どもの異変に気づくことも出来ます。
そういった意味でも、とても優れた方法だと言えますよね。
それくらいの効果があるものですが、基本がないモンテッソーリにおいては得られないものでしょう。
本当はもっと深過ぎる哲学が山のようにあるんですけど、とてもじゃないですが私の技量では短くまとめられません。
今回は私が一番感銘を受けた部分をクローズアップしてみました。
教具についても意味があり、同じような形をしていても基本を知っていなければモンテッソーリ教育にならないものもあります。