モンテッソーリ教育は、20世紀初頭にイタリアの医師・教育者であるマリア・モンテッソーリが提唱した教育法です。
モンテッソーリ教育ってよく耳にするけど、実際、どんなことをする教育法なのか分からないわ。
教具、お仕事、敏感期といった特殊なキーワードが出て来て、少し堅苦しいイメージがありますよね。
本記事では、モンテッソーリ教育の主要な特徴について、わかりやすく説明します。
モンテッソーリ教育の全体イメージを分かりやすく解説
モンテッソーリ教育を分かりやすく例えるなら、「動物園の動物と野生の動物の違い」から見ると分かりやすいと思います。
動物園で生きる動物は、従来の教育法で育った動物。
野生で生きる動物は、モンテッソーリ教育法で育った動物。
まさに、モンテッソーリ教育法がやろうとしていることは、野生動物のような生き方を導くことなのです。
それってどういうこと?
例えば、チーターについて思い浮かべてみてください。
動物園にいるチーターは、毎日、動かない肉塊を与えられて、それを受動的に食べる生活を送っていますね。
このチーターがもしある日、突然、野生で生きていくことになったとしましょう。
その時、檻の外での生活に身を置いたチーターは、自ら狩りをして生き抜くことが出来るでしょうか?
最高速度の走りを出すことが出来るでしょうか?
野生で生きるチーターですら狩りで獲物を得るというのは難しい時もありますから、狩りをしたことがないならば、なおさら、上手くいかないでしょう。自力で生きる方法を知らずに生きて来ているので当然です。
だからと言って、草で飢えを凌ぐことはできません。
でも、決して、能力が元から備わっていなかったわけではありません。
必要な時期に必要な環境がなかったため、それが、チーターを自立から遠ざけて、本来の能力を制限してしまったんです。
逆を言えば、その環境さえきちんと与えられていたならば、このチーターは野生のチーターと同じように自ら食料調達できるようになっていたはずで、本来の能力が制限されることはなかったでしょう。
このチーターには、食料を自分で獲るという環境が欠けていました。獲物を追いかけるために走り回れる広い場所もありませんでした。
動かないエサでは、狩りの必要性が生まれず、広い場所がなければ走る力が育たず、走る必要性もありません。
獲物を追いかけるための体の動かし方を学ぶ機会がないので、狩りの力は育たないのです。
もしも、動いてる獲物がいたならどうだったでしょう。走り回るための広い場所があったならどうでしょう?
本能によって、獲物を追いかけたに違いないです。
私たち大人は子どもたちに、この動物園のチーターのような生き方や環境を強いて、能力を制限してしまっています。
あなたは一人では生きられないでしょう?一人で何も出来ないでしょう?
だから、全て大人が準備して身の回りのことをやってあげましょう、と。
あなたは与えられたものを与えられた環境で過ごすだけ、大人に従うだけでいいのよ、と。
結果、大人に依存する人間に変えてしまうのです。
ですが、本来、子どもたちには自分で出来る力が秘められているのです。
大人が、大人に依存させるような環境を用意し、自立を奪っているだけなのです。
チーターでいう、獲物を見ると追いかけたくなる、走りたくなる本能のようなものが、実は人間にも違う形で内側に秘められており、その欲求を満たすことで人間本来の姿を取り戻せる、というのがモンテッソーリ教育理論の中心だと言えます。
つまり、モンテッソーリ教育とは天才を育てる教育法ではなく、人間が本能で必要としている環境を用意することで、人間本来の持っている力を最大限引き出す教育法と考えるのが自然です。
人間って天才的な能力を秘めている可能性があって、環境によって制限されてるんですね!
これがモンテッソーリ教育の全体イメージです。
このイメージを活かして、モンテッソーリ教育の特徴について解説していきたいと思います。
発達の段階を軸に展開する教育
モンテッソーリ教育の基本は、子どもの発達段階を重視し、それに合わせて適切な学習環境や教具を提供することです。
モンテッソーリは、子どもが各発達段階で特定のスキルや知識を習得しやすい「敏感期(Sensitive Period)」を持っていると考え、この「敏感期」に対応する教材や環境を提供することで、子どもは自分の生きる力を伸ばせると考えられています。
愛着形成と安心感を重視
モンテッソーリ教育では、子どもが心身共に安心して成長できるように愛着形成を重視しています。
子どもが愛着を感じる環境や関係性が整うと、自己肯定感や安心感が育ちます。
モンテッソーリ教育における大人の役割は、指導者というよりも「ガイド」であり、過度な指示や支配は控え、子どもが自ら探索できるよう見守ります。
このアプローチが、子どもと大人の信頼関係を築き、子どもが心から安心して学べる基盤を提供します。
自己教育力と「吸収する精神」
モンテッソーリ教育では、子どもが持つ「自己教育力」を最大限に引き出すことが重視されます。
特に0~6歳の子どもは、「吸収する精神」を持ち、周囲の情報や経験を無意識に吸収します。
環境が整っていることで、子どもは五感を通じて自然に学び、自分のペースで成長することができます。
大人の指導よりも子どもの自主性を重んじるアプローチにより、学びが子どもの内から引き出される形で進みます。
圧倒的な子ども目線の教育
モンテッソーリ教育の特徴のひとつは、徹底した「子ども目線」の教育です。
教室の家具や教具は、子どもの体のサイズや手の届く高さに合わせて設定し、すべての環境が子ども主体で構成されています。
このような環境では、子どもが自由に教具にアクセスし、自分で学びを進めることができます。
大人の目線ではなく、子どもが自立して活動できるよう設定されているため、子どもが自主的に興味を持ち、自分で探索する力を育てることができます。
規律と自由のバランス
モンテッソーリ教育は、子どもに「規律と自由」のバランスを教えます。
子どもには自由に活動を選ぶ権利が与えられますが、その中には他者への配慮や環境への責任が含まれます。
例えば、誰かが教具(一般的な場面で言うとおもちゃ)を使っている場合、見学することは許されますが、途中で邪魔することは出来ません。
それを使えるのは誰かが使っていない時だけ、というルールがあります。
このような環境の中で、子どもは自主的に行動しつつ、社会的な規律や秩序を学びます。
これにより、自由と規律のバランスを取りながら自律的な行動が身につき、社会生活に必要なスキルも自然に育まれます。
教具と教師(ガイド)の役割
モンテッソーリ教育においては、特別に設計された教具が重要な役割を果たします。
教具は、子どもが自分の力で試行錯誤し、ミスを自己訂正する機能があり、子どもの「手の学び」をサポートします。
また、教師(ガイド)は教具の使い方を示し、子どもが自ら学びに取り組めるよう手助けしますが、決して強制的な指導をしません。
教師はあくまで観察者であり、子どもが自主的に活動できるようサポート役として機能します。
平和教育
モンテッソーリ教育の大きな特徴として、「平和教育」が挙げられます。
マリア・モンテッソーリ博士は、教育を通じて人間の内面にある平和の意識を引き出し、戦争のない世界を築くことを目指しました。
教室の中で他者との共存や思いやりを学ぶことは、子どもの内なる平和意識を育む手助けとなり、社会全体の平和へと繋がります。
また、モンテッソーリ教育では異年齢の子どもが同じ環境で学ぶことが多く、年上の子が年下の子を助けたり、協力し合う経験を通して相互理解と共感が深まります。
医学と教育学の融合
モンテッソーリ教育は、モンテッソーリが医師としてのバックグラウンドを持っていたことから、教育と医学の融合がなされています。
子どもの発達や脳の成長に関する知識に基づき、特定の発達段階におけるニーズを考慮して教育環境を設計しています。
例えば、幼児期の敏感期や感覚教育は、脳科学の観点からも適切とされ、近年の研究でもモンテッソーリ教育の有効性が裏付けられています。
精神と肉体をバランス良く育てる教育
モンテッソーリ教育は、子どもの「精神」と「肉体」のバランスを考えた教育法です。
五感を使った活動を通じて、子どもは身体の動きや手先の器用さを養い、同時に集中力や思考力、自己制御力を身につけます。
これにより、子どもは心身共に健全に発達し、自分をしっかりとコントロールできる力が育まれます。
人間を創る教育法
モンテッソーリ教育は、知識や技術を教えるだけでなく、「人間としての成長」を支える教育法です。
自分で考え、自分で行動する力、他者への共感、そして社会での責任感を持った人間として成長できるように支援します。
子どもが自らの意思で行動し、内面の成長を遂げることで、生涯にわたって健全な人格形成に役立つ力を身につけられるのです。
おわりに
モンテッソーリ教育は、発達段階や敏感期に基づいた教育環境を整えることで、子どもの自主性や自己教育力を引き出す教育法です。
環境と教具、大人のサポートによって、子どもが自ら学び、成長する力を発揮できるよう設計されています。
医学と教育学が融合したこの教育法は、単に知識を教えるのではなく、人間としての成長を支援し、精神と肉体のバランスを育むことで、子どもが社会に貢献する健全な人格を形成する基盤を提供します。