モンテッソーリ教育では、おもちゃの選び方や与え方が他の教育法と異なる面があります。
特に、一般的に人気の「手作りモンテッソーリおもちゃ」については、モンテッソーリ教育の観点からは必ずしもおすすめできない理由があります。
この記事では、モンテッソーリ教育における手作りおもちゃの問題点や、子どもが成長するために必要とされる適切な環境について解説します。
教具と手作りおもちゃの目的の違い
モンテッソーリ教育で使用される教具は、子どもの発達を科学的にサポートするために精巧に考えられた仕組みを持つツールです。
マリア・モンテッソーリ博士は、子どもたちの行動や発達を観察し、その結果に基づいて教具を開発しました。
例えば、感覚教具には視覚、触覚、聴覚などの特定の感覚を刺激し、段階的に発達を促すような仕組みが取り入れられています。
一般的に考えられている感覚教育は「五感を使おう」という漠然としたニュアンスで捉えている人が多いのではないでしょうか。
でも実際には、五感をまとめてぐちゃぐちゃに使わせるのではなく、一つずつの感覚が独立した状態で使える活動を大切にします。
それぞれの感覚を知覚しやすくするために、五感の一つ一つに集中できるような活動を用意します。(五感は全て相互関係があり、お互いで情報を補っているため、完全には切り離されませんが)
一方、手作りのおもちゃは、こうした科学的な根拠を基に設計されているわけではなく、楽しさや興味を引くことが主な目的となっていることが多いです。
カラフルな素材を使っていませんか?感覚がごちゃごちゃしてませんか?
その証拠に、見た目の華やかさであったり、目立った特徴で子どもを惹きつけようとしています。
センサリープレイなどもモンテッソーリ教育と混同されているような面がありますが、モンテッソーリ教育におけるセンサリープレイ的な遊びを用意するとしたならば華やかさは排除すべき点でしょう。
水の中での浮力であったり、水の温度であったり、シンプルな科学現象などを活動に取り入れることはありますが、余計な刺激が多いと集中力を奪ってしまうため、装飾は必要以上に用いないのが原則と考えられます。
安全性が不確か
3歳未満に関しては、特に手作りおもちゃはお勧めしません。
安全素材を用いて、安全な手法で作成してますか?
噛み付いたり、爪を立てたり、他のおもちゃを使ってつつくことを想定してますか?
洗濯のりや保冷ジェルを使ったセンサリーマットなどが人気ありますが、袋が破れるという不測の事態は必ず起こり得ることです。
絶対に目を離さない中で遊ぶなら大丈夫でしょうが、トイレなどで一時的に離れるという状況があるなら危険です。
センサリーマットで得られる感覚は、良質ではありません。
実生活に結びつきがない感覚体験だからです。
リスクや作成時間をかけてまで与える必要はない遊びです。
お風呂でガーゼタオルで空気風船を作り、湯船に沈めて遊んだり、それを潰す方がシンプルで良いです。(空気の存在を認識する遊びです)
黄色いアヒルさん人形の方が安全ですし、水鉄砲したり、水を吸引するためにスポイトの予備練習のようなことができたり、浮力を学んだり、学べる内容が生活に結びつきます。
また、素材の表面の違いを手触りで学ぶような経験の方が、よりモンテッソーリ教育的です。
視覚的に流動を学ぶのが目的であれば、ごちゃごちゃしている中身は気が散るだけなので、シンプルにすべきだと思われます。
どうしても、感覚遊びを取り入れたい場合、3歳未満はきちんとしたおもちゃを買われることをおすすめします。
安全マークがあるものは、厳しい安全検査を受けており、安心して使えます。
手作りおもちゃに欠けているもの
モンテッソーリの教具には「自己訂正機能」が備わっています。
自己訂正とは、子どもが自ら間違いに気づき、修正することで学びを深めていくプロセスです。
例えば、円柱さしの教具では、大きさの合わない円柱を穴に置いた場合に、他の円柱が収まらなくなるため、子どもが自然に間違いに気づくことができます。
手作りおもちゃの多くは、この自己訂正機能が意識されていません。
そのため、間違いがあったとしても訂正されることなく活動を進めてしまう可能性があります。
これでは、モンテッソーリ教育とは到底言えない活動です。
「秩序」と「繰り返し」を重視するモンテッソーリ教育
モンテッソーリ教育では、秩序と繰り返しが大切とされており、教具もその特性に基づいて設計されています。
子どもは乳幼児期に特有の感性を持っており、本能的に、ある特定の感覚に強く引き寄せられる時期です。(敏感期)
この時期の関心に刺さる、物の性質や特徴や因果関係を再現する特殊な道具が、まさにモンテッソーリ教具なのです。
何度も繰り返し教具を扱う中で、子どもの集中力は養われ、逸脱状態にある子どもは正常化に導かれていきます。
手作りおもちゃは、しばしば、見た目の装飾などで気を引いてることが多いです。
しかし、それでは子どもが一度触れて満足し、本能が求めている感覚ではないため、すぐに飽きてしまうことが多くなってしまいます。
秩序ある構造がない場合も多く、子どもが繰り返し活動を持続することが難しいこともあります。
手作りおもちゃでは集中力が持続しにくいという現実
モンテッソーリ教育では、教具を使う中で、子どもが集中力を育むことが重視されています。
モンテッソーリ教育で手作り可能な部分というのは、言語教育や数教育、文化教育などの紙教材部分についてであり、特定のものだけであれば形を真似することで再現性があります。
しかしながら、モンテッソーリ園の教師たちが口を揃えて「手作り教材と教具では集中現象の継続時間が全然違います」と言うのです。
もしも、どうしても教具を手作りしようという試みをするのであれば、相当な知識が必要となることが分かりますね。
手作り教具を作るには予備知識が必要
教具の学習のねらいであったり、材質の特性であったり、子どもの操作性であったり。
例えば、メタルインセッツという教具を例にお話します。
青い金型とピンクの枠の型は分離します。
ピンクの金型では内側を鉛筆でなぞり、様々な形を描きます。色んな形を描くことで手首の可動性が良くなり、運筆練習となる活動です。
青い金型は輪郭を鉛筆でなぞる練習をしますが、内側をなぞるよりも手の発達的に難易度が高い活動となります。
メタルインセッツは手作りできるでしょうか?
- なるべく一つの図形に特化したプレートであること。
- 鉄製であることにより紙がズレない(重石となる)。
- プレートが薄いため、線の誤差が少ない。
これらのポイントを最低でも再現できる素材の代替品があるのであれば可能です。
ダンボールやプラスチックなどで代用しているような人もいますが、これだと、「一人でできる」という達成感が得られにくい教具となります。
一見すると、製図プレートで代用が効くように思いますよね?
実際に子どもに使わせてみると分かりますが、プラスチック製のプレートでは、押さえていても線を書いていると動きやすく、なかなか子ども一人ではうまく書けません。
動いて線が書けない経験が続くとその活動に対する面白さを受け取る前に戦線離脱してしまいます。
モンテッソーリ教具の多くは木製であるにもかかわらず、この教具は鉄製なのには意味があるのです。
ダンボールなどにおいては、鉛筆を斜めに倒すとダンボールの厚みが邪魔をして線に誤差が生まれます。
単に似た形のものを作ればいいのではなく、様々な角度からの可能性を意識しなければなりません。
目的ある活動
モンテッソーリ教育では、子どもが成長するために「目的ある活動」を提供することが重要視されています。
目的ある活動とは、子どもが自己の成長に必要なスキルや知識を自然と学べるようにデザインされた活動のことです。
例えば、手先の器用さを養うための教具や、物の数や形を学ぶための教具、音の違いを聞き分けるためのものや形や色を見分けるためのものもあります。
手作りおもちゃは、その場の楽しさや興味を引くことが主な目的であるため、子どもが何を学ぶためにそのおもちゃを使っているのかが明確でない場合が多いです。
そのため、目的が不明確なおもちゃでは、子どもの集中力は続きにくく、学びに繋がっていない遊びもあります。
おわりに
モンテッソーリ教育では、手作りおもちゃよりも子どもの成長を科学的にサポートする「教具」が重視されます。
手作りおもちゃには、モンテッソーリ教具が持つ自己訂正機能や秩序、目的ある活動を提供する要素が欠けていることが多く、子どもの集中力や成長を十分に促すことが難しいとされています。
子どもが自己成長を実感できるような環境を提供するためには、科学的根拠に基づいた教具や活動が求められます。
手作りおもちゃは一時的な興味を引きますが、モンテッソーリ教育が目指す「目的を持った活動」や「集中力」「自己訂正の機会」を提供するものではないため、モンテッソーリの理念には必ずしも合致しません。