
「ビジーボード」って、どれを選べば良質なモンテッソーリ教育が出来るかな?
ドアのロックやボタン、チャックなどの様々な仕掛けがついており、子どもが興味を持って触り、手指の発達を促すとされます。
一見すると、モンテッソーリ教育の活動でよく見るものばかりですし、モンテッソーリ教育だと勘違いしてしまいそうです。



しかし、このビジーボードというおもちゃはモンテッソーリ教育の理念に基づくものではありません。
今回は、ビジーボードがモンテッソーリ教育にそぐわない理由を、モンテッソーリ教育の基本理念と比較しながら詳しく解説します。
モンテッソーリ教育における「目的を持つ活動」とは?
モンテッソーリ教育は「目的を持つ活動」を通じて、子どもが主体的に学ぶ機会を提供することを重視しています。
モンテッソーリ教具には一つ一つに明確な目的があり、子どもがその目的を理解し、自らの意志で取り組むことが大切とされます。
教具は、子どもの興味を引くだけでなく、集中力を高め、自己修正が可能なように設計されています。
一方で、ビジーボードはさまざまな仕掛けが一つにまとめられており、子どもが次々と触れるだけで目的が達成されてしまいます。



これは「手当たり次第に刺激を与える」行為に近く、子どもが主体的に目標を持って動作を精密に調整していくという意識を作ることが難しいため、モンテッソーリ教育の理念に反するのです。
自律的な学びを阻む構造
モンテッソーリ教育では、子どもが自分で選び、自分で問題を解決する力を身に付けることが重視されています。
教具には「自己訂正」するための機能が備わっており、子どもは間違いに自分で気付き、正しい方法を模索しながら学びます。
たとえば、円柱さしという教具は、適切な場所にのみ円柱が収まるため、自然と正しい方法を学ぶことができます。



しかし、ビジーボードには自己訂正機能がなく、操作を味見して少しずつ食べ歩きするだけで、新たな学びや発見、深い興味を呼ぶ要素が少ない傾向があります。
子どもが試行錯誤し、自ら解決する力を養うには、明確なフィードバックが必要ですが、ビジーボードはその要素が欠けており、結果として受動的な遊びになりがちです。
モンテッソーリ教具の「一貫性」と「シンプルさ」
モンテッソーリ教具は、シンプルで一貫性のあるデザインが特徴です。



これがもっともモンテッソーリ教育ではないと言える理由になります。
例えば、色や形、数など一つの要素に焦点を当てて、子どもが特定のスキルや知識に集中できるよう配慮されています。
モンテッソーリ教育では子どもが一つの感覚に集中できるように、一つの道具に含まれる情報を極力そぎ落とすことを突き詰めた教具を使います。
このシンプルさが、子どもにとって理解しやすく、集中力を高める効果をもたらします。
一方で、ビジーボードは多様な仕掛けが混在しており、目の前にたくさんの情報が溢れることにより、子どもの集中を妨げます。
多くの仕掛けに気を取られ、次から次へと異なる動作を行うことで、子どもがじっくりと一つの活動に取り組む機会が奪われます。



モンテッソーリ教育では、こうした「多すぎる刺激」は、子どもの集中力を乱す原因になるとされています。
モンテッソーリ教育の活動の目標はまず、そもそも集中現象を起こすことにあります。
その目標を放棄するような遊びなので、決してモンテッソーリ的な理論は実現しません。
モンテッソーリ教育では、子どもが集中して活動に取り組むために、「静けさ」や「秩序ある環境」が重視されます。教具や環境が静かで落ち着いていることで、子どもはより深く集中し、学びを深めることができるとされています。



ビジーボードは、複数の刺激が視覚や触覚に訴えかけ、子どもの気を引こうとする構造になっているため、静かな集中を妨げる可能性があります。
次から次へと気を引く要素があることで、子どもは活動に落ち着いて取り組むことが難しく、モンテッソーリ教育が求める「静けさ」とは対極に位置するのです。
現実との結びつきが薄い
モンテッソーリ教育では、子どもが現実世界に即した学びを経験することを重視しています。
教具もまた、実生活で使われる動作を通じて自己管理や日常生活のスキルを学べるように設計されています。
例えば、ボタンを留めたり、スプーンで豆を移し替えたりといった教具を通じて、子どもは生活スキルを自然に身に付けていきます。
ビジーボードに見られる仕掛けの多くは、日常生活での実際の行為には直接結びつかないものも多いため、子どもがリアルな生活環境で使える技術や知識を習得するには不十分です。
この点でも、モンテッソーリ教育とは異なる方向性を持っています 。
子どもの自信や満足感を育むプロセスが欠如している
モンテッソーリ教育では、子どもが一つの活動を最後までやり遂げ、成功体験を通じて自己肯定感や満足感を得ることが重視されています。
例えば、パズルを完成させたり、砂をこぼさずにカップに移したりといった具体的な達成感が得られる教具が多く、こうした活動が子どもの自信や集中力を育てます。
しかし、ビジーボードには「これを達成した」という明確なゴールがないことが多く、結果として子どもが達成感を得にくい仕組みになっています。



目的がないまま様々な仕掛けを触れるだけでは、自己達成感や満足感を十分に味わえず、子どもが主体的に成長するには限界があるのです。
モンテッソーリ式のビジーボードの選び方
モンテッソーリ式のビジーボードがどうしても欲しいという場合には、一つの作業に集中できるようなスタイルのものを選ぶといいです。




このように1つのページに1種類の作業になっているものを選ぶとモンテッソーリ式に近づきます。



一つの活動に集中させることがそもそもモンテッソーリ教育の軸となる部分なので典型的なビジーボードスタイルは避けたい…。
ビジーボードというもの自体がそもそも1枚の壁に複数の活動をたくさん集めているものとなるので、モンテッソーリ式にはなり得ないのですが、一つ一つの作業を分けることが出来て、たくさんの活動を1まとめに持ち歩けるというものであれば、このようなものが最適です。
ビジーボードの一つ一つの活動自体は確かにモンテッソーリでも重視されている日常生活の練習にあたるパーツもあります。




スライドというパーツは、モンテッソーリ教育での運筆準備として必要な動作を習得できます。


ビジーボードのパーツは非常に魅力的なので、一つ一つの活動を独立させて作る形のおもちゃであれば、モンテッソーリ式になり得ます。
ただし、気を付けたいのは、これらの材料は子どものおもちゃとしての安全検査を受けていない可能性があるので、誤飲やその他のケガの恐れがある道具であるということ。



子どもに色んなことをできるようになってほしいというのは親の願いですが、決して安全面をおろそかにしないほうが良いです。
おわりに
ビジーボードは、子どもにとって一見楽しそうに見えるツールですが、モンテッソーリ教育の理念とは異なる方向性を持っています。
モンテッソーリ教育は、子どもの自律や集中、現実に即した学びを促進することを目指しており、そのための教具は明確な目的やシンプルなデザイン、静けさを兼ね備えています。
一方、ビジーボードは複数の刺激が混在し、子どもの主体的な学びや集中を妨げる要素が多く含まれています。
ビジーボードを使用することで一時的な興味を引くことはできるかもしれませんが、子どもが深い集中や達成感を味わいながら成長するためには、モンテッソーリ教具のように一つの目的に沿ったシンプルで秩序立った環境が必要です。
モンテッソーリ教育の理論に基づく育児や教育を目指すのであれば、ビジーボードではなく、目的と意味を持つ活動を提供することが大切と言えるでしょう。

