モンテッソーリ教育での「日常生活の練習」は、子どもが日々の生活の中で行う基本的な活動を通じて、さまざまなスキルを身につけ、自立するためにも重要な活動です。
三〜六歳の子どもたちは、私たちが「日常生活の練習」と呼ぶこの特別な練習に強い魅力を感じます。なぜなら、子どもたちは特別な敏感期にあって、感覚が鋭敏になり、たやすく間違いに気づかせてくれるこの「日常生活の練習」が好きだからです。感覚教育と同様、この練習に子どもの注意力は強く引き付けられます。それはこの仕事が子どもたちの年齢に合っているからと言っていいでしょう。
マリア・モンテッソーリ「モンテッソーリ教育の実践理論─カリフォルニア・レクチュア」
敏感期の影響が現れやすいのが、まさに日常生活の練習における活動です。
自分の生活の秩序を作るのが、日常生活の練習とも言えます。
日常生活の練習の目的
日常生活の練習は、モンテッソーリ教育導入のための基盤を固める大事な要素です。
高額な教具もそれほど必要としないですし、むしろ、身近なものを使っておこなえるので、モンテッソーリ教育の中で一番、おうちモンテッソーリに取り入れやすい部分といえます。
日常生活の練習でのねらいについて、いくつか紹介します。
自分の運動をコントロールする
単純な動きの中で、反復練習をすることで、不必要な動きを極力削ぎ落とすことが目標です。
乳幼児期の子どもは、自分の体を思うように上手く操れません。
乳幼児期に必要なのは激しい運動ではなく、まずは、全身を自分の思いのままコントロール出来るようになる運動の練習が大切です。
日常生活の練習こそが、舞踊やお点前のように、体系的な手順を持つ運動であり、無駄な動きが少ない運動と考えられています。
活動の中で、生活に必要な体の動かし方を学び、体得していきます。
動きの微調整をおこない、動きの調和をすること。
筋肉運動の協応性を高め、最終的には無駄な動きを省き、優美な動きを手に入れることで、自分の運動を完成させます。
「正常化」の状態へ導く
子どもたちが「日常生活の練習」によって正常化する前には、厳格な精確さがともなうこの練習をさせるなと言います。正常化が最初に来なければなりません。日常生活の練習は精神を正常な状態に連れ戻します。
日常生活の練習では、逸脱した子どもたちを正常化する目的もあります。
マリア・モンテッソーリ「1946年ロンドン講義録」
博士の言葉で強く言われているように、「子どもの正常化」というものがモンテッソーリ理論においてはとても大切なプロセスであり、活動がスムーズに進む重要な鍵を握っていると言えます。
逸脱状態にある子どもたちを正常化に導くのに、日常生活の練習は、とても大切な活動です。
観察力の発達
日常生活の練習をする中で、細部に目を向ける能力が発達するため、子どもの観察力が育ちます。
この「見る力」は、教具を扱う際にも活かされ、大人からの提示を観察する力や、教具を操作する際の注意力につながります。
信頼関係の構築と学びの基盤作り
日常生活の練習を通して、子どもは大人との信頼関係を築きます。
この信頼は、モンテッソーリ教育において大人から提示を受けるための基盤となります。
教具への準備
日常生活の練習は巧緻性を高める活動がたくさんあります。
巧緻性の発達は、モンテッソーリ教具を使用する際に非常に役立つものです。
モンテッソーリ教育では、教具の使用が重要な役割を果たします。
しかし、これらの教具を効果的に使用するためには、日常生活の練習を通じて基礎的なスキルが身についていることが不可欠です。
たとえば、手指の巧緻性が未発達な子どもは、教具を正確に扱うことが難しいため、まずは日常生活の練習を通して、基本的な操作の習得が求められます。
日常生活の練習・3つの段階
日常生活の練習は、モンテッソーリ理論において、以下の3つの段階に分けて考えられます。
子どもたちがどの段階にいるのか分かると、サポートの方法も変わりますね。
①受容(観察)
最初に、子どもは大人や環境の行動を観察することから始めます。
この段階では、子どもは直接的な指導を受けるのではなく、環境の中で自発的に観察し、どのような行動が求められているのかを学びます。
例えば、大人が掃除や食事の準備をする様子を見て、同じことを自分でもやりたいという気持ちが芽生えます。
②維持(繰り返し練習)
次に、子どもは観察した行動を自ら実行し、それを繰り返すことでスキルを身につけます。
この段階では、繰り返し練習することで、動作が洗練され、正確で効率的なものとなっていきます。
例えば、掃除の練習を繰り返すことで、モップの使い方や掃除の手順がスムーズになっていきます。
③創造(発展)
最終段階では、子どもは習得したスキルを基に、新しい活動を自発的に創造し始めます。
例えば、掃除のスキルを活かして、自分の持ち物やおもちゃを整理整頓する方法を考えたり、新しい方法で自分の環境を整えることができるようになります。
この段階は、子どもが自分自身の能力を活かして創造的に問題解決する力を育む機会を与えます。
日常生活の練習・4つの分野
モンテッソーリ教育の「日常生活の練習」は、
- 基本的運動
- 社交的なふるまい
- 環境への配慮
- 自己への配慮
4つの分野で構成されており、子どもが自立し、社会で生きるための重要なスキルを学ぶことを目的としています。
これらの活動は、子どもの感覚と認知の発達を支援し、彼らが環境や他者と健全に関わる力を育むための基礎を築きます。
1. 基本的運動
基本的運動は、日常生活の練習において最も基礎的な動作を指します。
これは他の3つの分野を支える動作であり、具体的には「歩く」「立つ」「座る」「物を運ぶ」など、日常的な活動を通じて身体全体を使った運動が含まれます。(粗大運動)
このような運動を通して、子どもは自分の体をコントロールし、環境とより調和した形で関わることを学びます。
これにより、精密な動作(微細運動)や集中力を養うことができます。
2. 社交的なふるまい
社交的なふるまいは、他者との関わりにおける社会的スキルを学ぶための活動です。
これには、挨拶、感謝、謝罪の仕方、物の受け渡し、食事のマナーなど、社会生活をスムーズにするための礼儀や規則を学ぶことが含まれます。
特にこの分野では、他人への配慮や共感を育むことが重視されており、子どもが他者との健全な関係を築くために必要なスキルを身に付けるための基礎を作ります。
3. 環境への配慮
環境への配慮は、子どもが自分の周りの環境を整えるための活動を指します。
掃除や洗濯、植物の世話、動物の飼育など、環境を美化し、整えることを通じて、子どもは環境との調和を学びます。
この分野では、子どもが自分の生活空間を整理整頓することの重要性を学び、さらに動植物の世話を通じて、生命の大切さや責任感を育むことができます。
4. 自己への配慮
自己への配慮は、自分自身を対象とした活動であり、衣服の着脱、歯磨き、洗顔など、自己管理能力を育てるためのものです。
これにより、子どもは自立心を養い、日常生活の中で自分のことを自分で行うスキルを身に付けます。
この分野の活動を通して、子どもは自己管理能力を発達させ、自信を持って社会生活に適応していくことができるようになります。
おわりに
モンテッソーリ教育における「日常生活の練習」は、子どもたちが日々の生活の中で自立した存在となり、環境と積極的に関わりながら成長するための重要な基盤です。
子どもは自らの力で学び、周囲の環境や人々との関わりを深めていきます。
また、モンテッソーリ教育の導入や基盤となる大切な活動です。